Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

根岸の地図

 最近根岸倶楽部から出版された根岸の地図は、大槻博士大槻文彦)の制作で、地形がとても正確なだけじゃなくて、われわれ「根岸人」にとって、かなり面白く、趣深い感じもある。私たちの住んでいる所は今、うぐいす横丁」というのだが、昔は「狸横丁」などと呼んだ。

 …田舎路はまがりくねりておとづるる人のたづねわぶることが根岸のみかは、抱一ほういつが句に「山茶花や根岸はおなじ垣つゞき」また「さゞん花や根岸たづぬる革ふばこ」また一種の風趣ならずや、さるに今は名物なりし山茶花かん竹の生垣もほとほとその影をとどめず今めかしき石煉瓦の垣さへ作り出でられ名ある樹木はこじ去られいにしへの奥州路の地蔵などもてはやされしも取りのけられ鶯の巣は鉄道のひびきにゆりおとされ水鶏くいなの声も汽笛にたたきつぶされ、およそ風致といふ風致は次第に失せてただ細路のくねりたるのみぞ昔のままなり云々…

 

 と博士は書いている。中にも鶯横丁はやたらとクネクネ曲がっていて、特にわかりづらく、せっかく訪ねてきたのに迷子になって、諦めて帰ってしまう人も多いだろう。

 

1901/1/18

 


 

 今回のように引用文がある場合は、原則原文のまま載せることとします。

 ちなみに、引用文を要約すると…

 「生垣にサザンカやカンチクの生垣が並んでいて、似たような風景が続いていたんだけど、やっぱり風流だったネ。でもそれらももうだいぶ少なくなって、今っぽい石レンガの塀なんかもできて、歴史のある銘木は切られ、古い奥州路の地蔵は退かされ、ウグイスの巣なんかは鉄道の騒音で落っこちて、クイナの鳴き声も汽笛にかき消され、もう風流なんて言ってられん。昔のままなのは、クネクネしたわかりずらい道だけだわ...」

 といったところか。

 

新部良仁