筆を執るのが不自由になったら、だれか代わりに書いてくれないかな、と常々思っていたところであるが、この前、馬琴が『八犬伝』のある巻に付記した文章を読んだ。
最初に自身が失明していること、原稿書くのが大変であることを述べて、
…文渓堂
とあるのを見れば、当時の馬琴ほどの名望地位をもってしても、代筆してくれる人を探すのは、なかなかに難しかったようだ。
そしてその次に
…吾孫興邦はなほ
などと書いている。この文は、昔読んだときは「この人も大変ネ」と思った程度だったが、今となってはいちいち身に染みて、リアリティがある。
しかし、このころの馬琴は歳を重ねて、成功し、今まさに『八犬伝』の完結を急ぎつつあるところであった。
つーことは、いまだにプロローグすらも十分に書かずに、エピローグへと向かいつつある我が身と、一緒にしてはならんのだろうけど...。
(1901/02/02)