Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

山吹の歌

病室のガラス戸から見えるところに裏口の木戸がある。木戸のそば、竹垣の内にひとむらの山吹がある。この山吹はもともと、隣に住む女の子が4,5年前に1寸くらいの苗をもって来て、とりあえず植えていったものだが、今となってはもう、縄で巻き付けておかねば…

病床の色彩

春雨降りやまぬ。退屈な病床。天井を見れば風車が5色に輝き、枕辺を見れば瓶の中の藤が紫で1尺ほど垂れている。 ガラス戸の外を見れば庭いっぱいの新緑が雨に濡れて、山吹は黄色がだいぶ薄れて、ボタンは薄紅の1輪が咲き始めている。 やがて、絵の具を出して…

藤の歌

夕飯を食べた後、仰向けに寝ながら左の方を見れば、机の上に藤を行けてあり、よく水をあげたせいか今は花盛りとなっている。 とても艶やかで美しいわい、と一人心地ながらなんとなく昔を思い出していたら、なんだか歌心を催してきた。こういったことには最近…

茅堂に苦言

中村不折が鳥羽僧正(とばそうじょう)(覚猷(かくゆう)のこと。風刺的精神を持った漫画的なユーモアのある絵を多数残す)の画について言ったことに対して、茅堂(ぼうどう)は彼の説に反論して一文を投じた。茅堂も不折もともに親しく交際している仲なの…

ふたつの「露」

ある人に向かって、短歌の趣向や材料について話したついでに言った。「松葉の露」という趣向と「桜花の露」という趣向とを同じようにみられてしまうのは口惜しい。 私が去年の夏に「松葉の露」の歌10首をものした際、古人が見つけていない場所、あるいは見つ…

「月並」の定義

碧梧桐いわく、 山吹やいくら折つても同じ枝 子規 山吹や何がさはつて散りはじめ 同 の2句は月並調なんじゃないか、と。こういった主観的な句を月並調とするのであれば、 鶴の巣や場所もあらうに穢多の家 子規 などもむろん月並調の部に入れられるのだろう。…

臨終の兎

昨日の夢で、たくさんの動物たちが遊んでいる場所に来た。 その動物たちの中に、死期が近づいたのか、転げまわって煩悶している者がいる。 すると1匹の親切な兎がやってきて、その煩悶している動物の傍に行き、自分の手を差し出した。その動物はすぐに兎の手…

トンチンカンなパンフレット

枕もとに、誰かが置き忘れた「尾形光琳(おがたこうりん)伝」と書かれた一葉摺りのものがある。3,40行の短文で、末尾に明治34年4月文学博士重野安繹(しげのやすつぐ)撰と書かれている。 おもうに、最近光琳ら4家の展覧会があったそうなので、そのパンフ…

月並を知る者こそ

「自分の俳句が月並調に落ちてはいないかと自分で疑っているのだけれども、どうしていいのかわからない」と聞かれた。 答えるとすれば... 月並調に落ちようとしているのであれば、そのまま月並調に落ちるがいいだろう。月並調というものをよく知らないから、…

おみくじの真相

この前書いたおみくじの内容だが、ある人から『三世相』の中にある「元三大師(がんざんだいし)御鬮(みくじ)鈔(しょう)」解説文だと言って全文を写して送られてきた。そのなかには、「 佳人水上行(かじんすいじょうにゆく)」について、 かじんすいじ…

諸方より手紙被下候諸氏へ

諸方よりお手紙をくださいました皆様へ、この場を借りて一度にお返事を申し上げます。 私の病気について種々様々なご注意くださり、「『人胆丸』は万病に効くので中国で作られた『人胆丸』を一つやろうか」とか、「ナニガシのカミサマを信じれば病気平癒マチ…

痛い痛い痛い!!

面白ければ笑うし、悲しければ泣く。しかし、痛みの激しいときには仕方がないので、うめくか、叫ぶか、泣くか、または黙って堪えているか、である。 その中でも黙って堪えているのが一番苦しい。盛んにうめき、盛んに叫び、盛んに泣くと、多少は痛みがマシに…

春雨の午後

今日は朝からの春雨でやや寒さを覚えたので、フトン被って寝ていた。 垣根のヤマブキも段々とほころんできて、盆栽の桃の花がセイヨウアオイと並んで高い台の置かれているところなんかが、ガラス越しに見える。 午後になると体が温まってきて、しかも今日は…

ワケ判らんおみくじ

鼠骨が使いの者をよこして、ブリキの缶が欲しい、というからあげたら、その缶の中におみくじを入れて持ってきた。 まず一つを引いたら、「第九十七凶」と書かれており、その文句は、 霧罟重楼屋(むころうおくをかさぬ) 佳人水上行(かじんすいじょうにゆく…

病床9句

筋(すじ)の痛を怺(こら)へて臥し居れば昼静かなる根岸の日の永さ パン売の太鼓も鳴らず日の永き 上野は花盛(はなざかり)学校の運動会は日ごと絶えざるこの頃の庵(いお)の眺(ながめ) 松杉や花の上野の後側 把栗(はりつ)鼠骨が一昨年我病を慰めた…

目の慰み

ガラス玉に金魚を10匹ほど入れて、机の上に置いてある。私は痛みをこらえながら病床からつくづくとみている。 痛いことも痛いが、奇麗なことも奇麗だ。 (1901/04/15)

「田打ち」? 「畑打ち」?

左千夫によると、俳句に「畑打(はたうち)」という題が春の季にあるのは納得できない、畑を打ち返すのは秋にやることで、春には打ち返す必要がない。もしも田を打ち返す事を言っているのであれば、それは春のやや暖かくなるころに必ず行われる...だそうな。…

名前の力

美しい花も、その名前を知らなければ文にかけないのでとても悔しい。 甘くもない駄菓子の類にも、名物めいた名前がついているものは、味がマシになったような気がするだけだが...。 (1901/04/13)

明治文士よ永遠に

ちょっと試しに「文士保護未来夢」という4枚続きの漫画を描いてみようか。 ~1枚目~ 青年文士が真っ青な顔をして首をうなだれ、合掌して座っている。その後ろには肩に羽のあるカミサマが「天(あめ)の瓊矛(ぬぼこ)」とでも言いそうな剣を提げて立ってい…

配合

虚子曰く、今までずっと写生の話もいてきたし、「配合」という言葉だって耳にしてきたのだが、最近話を聞いているうちに、はじめて「配合」という事について気が付いて、写生の味を理解したように思われる。 子規曰く、私は何年か茶漬けを食べてないから、茶…

川辺の思い出

私の故郷では、だんだん暖かくなってくると「おなぐさみ」というイベントを行う。これは近郊に出て遊ぶことで、一家一族、ご近所さん、向こう三軒両隣、といったよく付き合いのある人たちが誘い合って、少ないときは3,4人、多いときは2,30人もゾロゾロと連…

返上届

一 人間1匹 上記を返上いたします。 ただし、時々幽霊となって出られるように、特別をもって御取り計り下さるべくよろしく申し上げます。 明治34年月日 何がし 地水火風 御中 (1901/04/09)

よわいひと

私は子供のころから「弱ミソ」だの「泣きミソ」だのと呼ばれて、小学校に入ってからも散々泣かされていた。 例えば、私が壁にもたれていると、右の方に並んでいた友達が、からかい半分に私を押してくる。左によけようとすると、左からも別のヤツが押してくる…

ブツブツブツ...

最近は左の肺から「ブツブツブツ...」という音が絶えず聞こえる。 コレは 「怫(ぶつ)々々々...」と不平を言っているのだろうか、それとも「仏(ぶつ)々々々...」とネンブツを唱えているのであろうか。 それとも、「物(ぶつ)怫々々々...」と唯物論でも主…

目から鼻へ

故・陸奥宗光氏と同じ牢屋に入っていた人に、「陸奥はどんな人か?」と聞いたら、「目から鼻に抜けるようなイイ男」っという答えであった。 今生きている人の中にも、「目から鼻に抜ける」ほどのスマートなヤツってのが2,3人はいる。 私も1度、こういうヒトに…

西洋の笑い歌

(黒井)恕堂(じょどう)がある日、大きな風呂敷包みを抱えてやってきて、私に「音楽を聴くか?」と尋ねるので、どんな楽器を持ってきたんだ? と訝しみながらも「聴く」と答えた。それから恕堂の動きをよく見ていると、彼は風呂敷を解いて、蓄音機を取り出し…

病床の小さな友

春雨の朝からショボショボと降る雨は、とてもに静かでちょっと淋しいようで、おしゃべりなんかに適しているから、こういう日に傘さして袖を濡らしてワザワザ話しに来たよ、という遠方の友なんかがいたらとても嬉しいのだが、まあ、そういう事は今まであった…

『明星』の落合氏の歌⑦

まどへりとみづから知りて神垣にのろひの釘をすてゝかへりぬ このテの歌は、いわゆる新派の作品に多い。趣向が小説的なものをテーマにして、歌として詠みこなすことは最も難しいテクニックなのだが、ただ表面上の事実を報告するような文法で、中心も、統一性…

『明星』の落合氏の歌⑥

君が母はやがてわれにも母なるよ御手 (みて)とることを許させたまへ 男女の仲なのか、義兄弟の交じりなのか、どっちともつかないけれど、イマドキ「義兄弟」ってのも無いだろうから、ここは男女の仲であることは疑いがない。 ただ、男女の仲、としたところ…

『明星』の落合氏の歌⑤

むらさきの文筥(ふばこ)の紐のかた〳〵をわがのとかへて結びやらばいかに 「わがのと」とは「わが紐」ということなんだろうけど、「我の紐」というところが充分に理解できない。「わが文筥」の紐か、「わが羽織」の紐か、「わがヒョータン」の紐か、でもっ…