Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

墨汁一滴

夏のスシ

スシの俳句を作るヤツのなかには、それが何を意味するかも知らんのに「鮓桶(すしおけ)」とか「鮓圧(すしお)す」なんて使っとるのが多い。 昔の寿司は「鮎鮓(あゆずし)」のようなものであった。 それは、アユを飯の中に入れて酢を入れたものをオケに入…

蚊の季節

健康な人はちょっと蚊が出たくらいで大騒ぎしてうるさがっている。 病人はフトンの上で寝たきりで、腹や腰の痛さで時々わめく。高熱が出ると全体が苦しいから絶えずうなる。蚊なんてのは四方八方から全軍こぞって刺しに来る。 手は天井からぶら下げた力紐に…

中村不折を送る

陸羯南氏が主催で、私の枕頭にメインゲストの中村不折をはじめとして、鳴雪、(桂)湖村(こそん)、虚子、(鈴木)豹軒(ひょうけん)、それに滝氏や(浜村)蔵六もちょうどやってきた。わがアバラ家は大盛り上がり。 虚子が最後に残って、「船弁慶」を一番…

中村不折に贈る⑤

不折君と為山氏はおなじ小山門下で、互いに知り合いであるが、いずれも一家の見識を備え、立派な腕を持っているので、好敵手といったところだろう。 たとえこの二人が競争しようとしているわけでないにしても、私たちのような傍で見ているものは、やっぱり二…

中村不折に贈る④

それぞれ専門の学芸・技術に熱心な人は少ないくないけれど、不折君の画に対する熱心さに肩を並べるものは少ないだろう。 いつ会っても、いつまで語っても、ひとたび人と会って語り始めたら、ずーっと画談を続けて止まることがない。もしもそこに筆があったら…

中村不折に贈る③

私が出会うより前の不折君は、不忍池のほとりに一間の部屋を借りて、そこで自炊しながら勉強していたという。その間の困窮はたとえようもなく、一粒の米、一銭の蓄えもなく、食わず飲まずで1日を過ごすことも1,2度はあったという。そのほかは推して知るべし…

中村不折に贈る②

しかしそれでも私は、不折君に対して不満を持っていた。それは不折君が西洋画家であったことだ。当時の私は日本画崇拝者のひとりで、まさかに不折君が各新聞の挿絵までも排斥するほどではなかったが、油絵に関しては大反対で、「没趣味だ」と言ってきかなか…

中村不折に贈る①

中村不折君は今度の29日に西洋行きの旅に出発する。 私は横浜の波止場まで見送ってハンカチを振って別れを惜しむ...なんてことはできず、また、1人前50銭くらいの西洋料理を喰いながら送別の意を表するワケにもいかず、やむを得ず紙上に拙き言葉を並べること…

最期の言葉

板垣氏が岐阜県で刺されたときには、名言を吐いて倒れたものの無事に生き残ったので、なんだか間の悪いような感じがした。 星氏の最期は一言もないので、これはこれで寂しいものがある。 できれば「ブルータス、お前もか!」的な名セリフがあったら、かなり盛…

この世から

「刺客」ってのはなくなるものだろうか、なくならないものだろうか。 (1901/06/23) これはなんだか漠然とした1行ですが、おそらくこの2日前の1901年6月21日に、政治家の星亨が暗殺された事件を指しているのでしょう。 ちなみに、この事件に関しては翌日の…

歴史の授業

学校で歴史の試験に、ある出来事の年月日を答えさせるような問題が出る。 こんなもん、本当に必要があれば自然と覚えていくものだろう。 学校で無理に覚えさせるなんて、なんだかバカげた話だ。 (1901/06/22)

イバりたい人

ある人によると、官省にいる門番がことごとく横着な態度である、という。 鳴雪翁曰く... 横柄なヤツには勝手に驕らせておけ。彼はこういう場所でしか人に対してイバれないんだから。そう思っているから、私は帽子を脱いでお辞儀をくれてやるし、それですべて…

その土地の儀式

『俳星』に塚本虚明(きょめい)の「お水取り」という文があって、奈良の二月堂の水取のことが詳しく書いてある。私はこれを読んでうれしくてたまらない。 京阪地方にはこのような儀式や祭りが沢山あるのだから、京阪の人は今の内になるべく詳細にその様子を…

さらばネズミよ

東京じゅうのネズミを100万匹として、毎日1万匹捕まえるとすれば、100日で全滅することになる。 しかし、この100日のうちに子を産んでいくとすると、実際にはいついなくなるかはわからない。とりあえず、一度始めたんだから、ネズミが尽きるまでやってみれば…

朝飯の東西

名古屋を境界線として、これより東、あるいは北の地域では、毎朝ご飯を炊いて味噌汁をこしらえる。一方これより西、あるいは南の地域では朝は冷や飯と漬物で済ます。 これは気候や寒暖の差から起こった違いだろう。 (1901/06/17)

試験嫌い③

明治24年の学年試験が始まったが、だんだん頭脳が悪くなって耐えられなくなり、ついに試験を残して6月の末に帰郷した。9月にはまた東京に戻って試験を受けなければならないので、準備をしようと思っても、書生が群がっているやかましい所では出来そうもない…

試験嫌い②

私が落第したのは、幾何学にオチたというよりもむしろ「英語にオチた」といった方が適当だろう。幾何学の最初の方に「コンヴァース(逆)」だの「オッポジト(裏)」などという事を英語でいう事が私にはできなかったものだから、そのほかの2,3行程度のセンテン…

試験嫌い①

『日本人』に「試験」という話題があったので、おもいがけず「試験」という極めて不快な事件を思い出した。 私は昔から、学校はそれほど嫌いではなかったが、「試験」というイヤーなモノがあるために、ついには「学校」という字を見るのも、もうイヤな感じが…

大味小味

日本の牛は改良しなきゃならんというから、国産牛の乳は悪いのかというと、まったく悪いわけじゃない。ただ、乳の分量が少ないから不経済であるというのだ。 また、牛肉は悪いかというとこれも、少しも悪いことはなく、むしろ神戸牛ときたら世界の牛の中でト…

ぼんやりとした日

植木屋が2人来て、病室の前に高い棚を作る。 日光を遮る役はヘチマ殿、朝顔殿に頼むつもり。 碧梧桐が来て、謡曲を2番歌って帰る。清経(きよつね)だの、蟻通(ありどおし)だの。 (1901/06/12)

なんだかいい日

病室の片側には綱をかけて陸中(りくちゅう)小坂(おさか)の木同より送られてきた雪沓が10種ばかり、そのほかカンジキ、蓑帽子などを掛け並べてその続きには満州にあるという曼荼羅が1幅、極彩色で青い仏や赤い仏などいろんな仏を描いたものを掛け、ガラス…

パクるなよ

東京にスバシッコイ俳人がいる。 運座の席に出て、先輩の句に注意し、またどんな句が多数の選に入るかに注意し、その句をメモって帰り、さっそくその句の特色をマネて、っていうかパクって東京や地方の新聞社に投稿して、誰かに抜かされることだけを恐れる。…

眠れない夜

熱高く身体苦しい。はじめは呻吟、中ごろは叫喚、終わりは吟声となり放歌となり都々逸、端唄、謡曲、仮声、片々寸々時々刻々コロコロと変化して自分でも次にどうなるかよくわからん。 一夜例のごとく偈(仏典の詩。三言から五言の4句からなる)のようなウワ…

婦人服の東西

『心の花』に大塚氏の日本服の美術的価値という論説文がある。この中に西洋の婦人服と日本の婦人服を比較して、最終的に、 「始終動いて居る優美の挙動やまた動くにつれて現はれて来る変化無限の姿を見せるといふ点で日本服はドウしても西洋服に勝(まさ)つ…

浮いている小便桶

俳句を作る人は、大体の趣向を思いついたら、言葉の使い方をおろそかにするので、何を言いたいのかわからなくなることが多い。 浮いて居る小便桶や柿の花 という句なんかは、作者の意図としては「柿の花」が「小便桶」に浮いているつもりなんだろうけれど、…

音の洪水

夜が短い季節ではあるが、病を抱えて身でしかも眠れないとあっては、行燈の下の時計だけを眺めてとても長く感じる。 午前1時、隣の赤子が泣く。 午前2時、遠くで雛の声が聞こえる。 午前3時、単行の機関車が通る。 午前4時、紙を貼った壁の穴がわずかに白ん…

蕪村の文台

伊藤松宇(しょうう)氏がやってきて、蕪村が使っていたという文台を見せてくれた。天橋立の松を使って作ったそうな。 木目があらく、上に二見の岩と扇子の中に松を描いてある。筆法が無邪気で蕪村が若かりし頃に書いたものかと思える。 文台の裏には短文を…

富クジ的応募

募集している俳句は、句数に制限がないので、20句とか30句、果ては60句とか70句も出すヒトがいる。ソイツ的にはこんだけたくさん出せば一つくらいは採用されるだろう、ってなことだろう。なので、これを「富クジ的応募」という。 こういった句は、最初の4句…

「ぼうたん」だって?

このまえ牡丹の句を募集したとき、「ぼうたん」と4文字に伸ばして詠んでいる句がほとんど過半数を占めていて、とても意外に思った。いつの間にこうも全国的にこの語が広まったのだ、とビックリ仰天である。だけどこの語は私の耳にはなじまないので、どの句も…

「や」でも「も」でも...

このごろ碧梧桐の俳句が、一種の新調をなした。俳句の中に「も」の字を多用するのだ。 たとえば 桐の木に鳴く鶯も(〇)茶山かな 碧梧桐 といったものである。そのことに対する批評はさておいて、碧梧桐のオリジナリティを持つことと言ったら、さすが碧梧桐…