Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

節分の風習

 節分に豆をまくのは、今でもやっている人はいるけれど、大方は廃れた。ましてやその他の風習などは、言うまでもないだろう。私の故郷である伊予で過ごした幼少時代に、見覚えたものは、随分と面白いものであった。


 節分の日になると、男女の物乞いたちが縁起物の格好をしてやってくる。女はお多福の面をかぶり、男は顔からだをすべて真っ赤に塗りたくって、額に縄のツノを結び、手には竹のササラを持って、鬼になる。
 お多福がまず屋敷の門の内に入って、手に持ったマスの豆を撒くフリをしながら、「ご繁盛様には福は内、鬼は外」と言う。この時鬼は門の外にいて、ササラで地面を打って、「鬼にもくれねば入ろうか」と叫ぶ。
 そのイデタチが異様でソイツが荒々しい声を出すものだから、子供心にひたすらに恐ろしく、「もしも門の内に入ってきたら、どーしましょ」と思っていた事を今でも思い出せる。
 鬼が外でこのように脅していると、お多福が内から「福がいっしょにもろてやろ」と言う。このようにして彼らは、餅や米、銭などをもらい歩くのである。
 やがてその日も夕方となると、主人は肩衣をかけて豆の入ったマスを持ち、まずは恵方に向けて豆を撒き、「福は内、鬼は外」と掛け声をする。それから四方に向けて豆を撒いて、「福は内」と呼ぶ。
 これと同時に、台所では田楽を焼き始める。味噌のにおいで鬼が逃げるのだという。
 撒いた豆は、布団の下に敷いて寝れば腫物が治るということで、必ず拾ったものだ。豆を家族の年の数ほど紙に包んでそれを厄払いとするのは、どこの地方でも同じことだろう。
 タラの木に鰯の頭を刺したものを戸口に挟むのが多いけれど、柊を刺しているところも無いわけではない。


 それも今は行われているのだろうか。

 

(1901/02/04)