Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

明治文士よ永遠に

 ちょっと試しに「文士保護未来夢」という4枚続きの漫画を描いてみようか。

 

~1枚目~

 青年文士が真っ青な顔をして首をうなだれ、合掌して座っている。その後ろには肩に羽のあるカミサマがあめ瓊矛ぬぼことでも言いそうな剣を提げて立っている。

 カミサマは次のように宣告する。「汝、可憐なる、意気地なき、心拍数の上がりやすき、下腹のへっこみやすき青年文士よ、おまえは100年ほど早く生まれてきてしまった。今の世の中は『文士保護論』がようやっと僅かに目を出し始めた時で、実際に文士保護が行われるような時代ではない。ワシはお前が原稿を抱いて飯にもありつけない窮境を実に哀れに思う。で、今からお前を一刀両断するから、また出直してきなさい

 

~2枚目~

 文士の首が落ちた場面。切られた首の跡から白い煙が立っている。その煙が「まいらせ候」という字になっていて、その煙の末に裸体美人がほのかに現れている。カミサマの剣の先からは紫の血が滴っており、その滴りが「恋愛文学」という字になっている。

 

~3枚目~

 芝居の舞台。舞台の正面には「嗚呼明治文士之墓」という石碑が立っている。墓のほとりにはスミレが咲いていて、墓の前の花筒には白百合の枯れたのが差し込んである。

 この墓の後ろから西洋風の幽霊が出てきて、この幽霊になった俳優が川上音二郎の5代目の後継ぎだという。さて、この幽霊がここでおおいに文士保護の演説をすると、観客は喝采で、金貨や銀貨をむやみに舞台に向かって投げる。投げた金貨や銀貨はみんな飛んで行って、文士の墓に引っ付いてしまう。

 

~4枚目~

 大宴会の場面。正面の高いところに立っているのが、5代目川上音二郎である。彼は次のように演説する。「このたび『明治文士』という演劇が大入りになったのにあたって、当世の文士諸君を招いて、いささか粗酒を呈するのである。明治文士の困難は、すなわち諸君の幸福へと化したのだ。明治文士の流した血は、今諸君のグラスに注がれたワインと変じたのである。明治文士は飯の食えない物と決まっていたのだが、今は『食っていけないヤツは文士になれ』とまで言われるほどになった。明治文士は原稿を抱いて餓死したのだが、今は『文士保護会』にもっていけばどんな原稿も良い値段で買ってくれる。そのために原稿の価格が高騰して、『原稿取引所』相場をやるようになった...云々」

 拍手喝采が鳴り響き、俳優バンザイ、文士バンザイを連呼する。 ――fin.

 

(1901/04/12)