Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

ややこしい『海岸寺』

 十返舎一九の『<ruby><rb>金草鞋</rb><rp>(</rp><rt>かねのわらじ</rt><rp>)</rp></ruby>』という絵草子が24冊ほどある。これは江戸、大阪、京都の三都をはじめ、60余州の名所霊蹟巡覧記とでもいうべき仕組みなのだが、作者の知らないところは結構テキトーに描かれたいたりなんかして、実際とはだいぶ違うどころか、物凄いマチガイなんかもワリとある。

 

 例えば、四国八十八か所巡礼の部を見てみると、「岩屋海岸寺」という札所の図がある。それを見ると、断崖の上に伽藍がそびえて、周りは海に囲まれ、船舶が多く行き来している様子が描かれている。これは「海岸寺」という名前から連想して描いたのだろうが、しかし実際は、この寺は海から10里以上も離れた山奥にある。
 では何でこんな名前なのかというと、昔この場所を詠んだ歌に、「松が風に揺れる音を、波の音と聞き間違えて、海岸が近いのかと思っちゃったヨ」的なものがあったのが由来だと聞いたことがある。誰のどんな歌なのかは忘れた。
 この寺は小ぢんまりとした造りなのだが、この辺の地形は深い山の中で、断崖が立ち並び、奈落のような谷から天空の柱のような絶壁まであり、そういったものに囲まれて清流がサラサラ流れていたりなんかして、とにかく物凄い絶景なので好事家の中には、この場所に足を運ぶものも多いという。

(1901/02/10)