Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

病床の小さな友

 春雨の朝からショボショボと降る雨は、とてもに静かでちょっと淋しいようで、おしゃべりなんかに適しているから、こういう日に傘さして袖を濡らしてワザワザ話しに来たよ、という遠方の友なんかがいたらとても嬉しいのだが、まあ、そういう事は今まであったためしがない。

 

 今日も雨が降るので、客も来なくて、仰向けになってボンヤリ天井を見ていると、張り子の亀がぶら下がっている。ススキの穂のミミズクもぶら下がっている。ダチョウの卵の黒いのもぶら下がっている。

 周囲の鴨居には菅笠すげがさが掛かっている。みのが掛かっている。ひさごの花活けが掛かっている。

 枕もとを見ると箱の上に1寸ほどの人形がたくさん並んでいる。その中にはお多福たふくも、大黒も、恵比寿も、福助も、裸子はだかごも、招き猫もあって、みんな笑顔を作っている。

 

 こんなツマラナイときに、こういうオモチャやら菅笠やらに皆脚が生えて、病床の周りを歩き出したら面白いだろう。

 

(1901/04/4)