Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

西洋の笑い歌

 (黒井)恕堂じょどうがある日、大きな風呂敷包みを抱えてやってきて、私に「音楽を聴くか?」と尋ねるので、どんな楽器を持ってきたんだ? と訝しみながらも「聴く」と答えた。それから恕堂の動きをよく見ていると、彼は風呂敷を解いて、蓄音機を取り出した。私はこの機械を初めて見たので、1尺ほどのラッパが突然にこちらを向いて口を開いたようにしているのもおかしかった。

 それからまた、箱の中から竹の筒を5,6寸に切ったようなものを取り出した。これは蝋で出来ていて、この表面についているとても微細な線は、「声の跡」だという。これを機械にセットしてネジを巻くと、自動的にブルブルと鳴り出す。

 こういった筒が18個あったのを取ッ換え引ッ換えしてかけてみたのだが、大半は西洋の歌なので、我々にはよくわからなかった。しかし日本の歌唱なんかに比べると、調子に変化があって面白く感じた。

 日本のは3つほどある内に「越後獅子の布を晒す所じゃ」 というのがあって、それがけっこう面白かった。

 

 西洋の歌の中に「ラフィング・ソング(笑歌)」と題したものがあって、一体何を言ってるのかわからんけれど、やたらに速いテンポで、所々に笑い声の入る歌であった。これは、笑い声に定評のあるという西洋のミュージシャンが吹き込んだというもので、試しにこの歌を想像で翻訳してみると、

 

 カラスが5,6羽飛んできて、権兵衛の頭にフンかけた(アッハッハ...)

 カミナリ4,5発ゴロゴロゴロ、雲の上からスッテンコロコロ、物干し台に引っかかった。 太鼓破れてメチャクチャだ (アッハッハ...)

 猫屋のバアさん四十島田、猫の子10匹産みおった。白猫、黒猫、三毛猫、山猫、招き猫。(アッハッハ...)

 

 ...という風に聞こえた。だけども、原作がこんなに俗っぽいかどうかは、わしゃ知らん。

 

(1901/04/05)

 

 


 

 国内に蓄音機が輸入されてきて、結構初期の方の文献なので、貴重な証言でもあります。ちなみに、現在主流の円盤型のレコードは、実はこの記事に登場する円筒型の後に開発されたものです。でもって、エジソンが発明した蓄音機に使用するのは、円筒型のレコード。まあ、結果的には円盤型の方が便利だったから残ってるんだけど。

 

 さて、子規先生のセンスによる、ラフィング・ソングの訳はいかがでしょうか。ハッキリ言って面白さがワカランのですが…。

 人名はなじみのあるものに置き換えて、「権兵衛」としたところはまだわかる。欧米のジョークにも「ミケノビッチ」という人物がよく登場し、古い文献だとしばしば「弥太郎」と訳されていたりもしました。

 だとしても、仮にも英語圏の歌を聴いてるんだから、「カミナリ様の太鼓」だの「招き猫」だの「四十島田のバアさん」だのを連想するってのは、ちょっとやばいんじゃねえの?

 

 

 

 

新部良仁