Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

病床9句

 

 すじの痛をこらへて臥し居れば昼静かなる根岸の日の永さ


   パン売の太鼓も鳴らず日の永き

 


 上野は花盛はなざかり学校の運動会は日ごと絶えざるこの頃のいおながめ


   松杉や花の上野の後側

 


 把栗はりつ鼠骨が一昨年我病を慰めたる牡丹去年こぞは咲かずて

 

   三年目につぼみたのもし牡丹の芽


 窓前の大鳥籠には中に木をゑて枝々にわらの巣を掛く

 

   追込の鳥早く寐る日永かな

 


 毎日の発熱毎日の蜜柑この頃の蜜柑はやや腐りたるが旨うまき


   春深く腐りし蜜柑好みけり

 


 隣医ひさご花活はないけに造り椿を活けて贈り来る滑稽の人なり


   ひねくり者ありふくべ屋椿とぞ呼べる

 


 かねば邪魔になる煖炉取除とりのけさせたる次の朝の寒さ


   煖炉取りて六畳の間の広さかな

 


 歯の痛三処に起りて柔かき物さへ噛みがてにする昨今


   たけのこに虫歯痛みて暮の春

 


 或人こけを封じ来るこは奈良春日神かすがじんじゃ石燈籠いしどうろうの苔なりと


   苔を包む紙のしめりや春の雨

 

(1901/04/16)