病室のガラス戸から見えるところに裏口の木戸がある。木戸のそば、竹垣の内にひとむらの山吹がある。この山吹はもともと、隣に住む女の子が4,5年前に1寸くらいの苗をもって来て、とりあえず植えていったものだが、今となってはもう、縄で巻き付けておかねばならぬほどにまでなった。
今年も咲きに咲いて、すでに半ば散ってしまった景色を眺めていると、なんだか歌心が起こったので原稿を手にもって...。
裏口の木戸のかたへの竹垣にたばねられたる山吹の花
小縄もてたばねあげられ
水汲みに
まをとめの
歌の会開かんと思ふ日も過ぎて散りがたになる山吹の花
我
あき人も文くばり人も往きちがふ裏戸のわきの山吹の花
春の日の雨しき降ればガラス戸の曇りて見えぬ山吹の花
ガラス戸のくもり拭へばあきらかに寐ながら見ゆる山吹の花
春雨のけならべ降れば葉がくれに黄色乏しき山吹の花
雑だの粗削りだの、デタラメ、無茶苦茶、いかなる評価も謹んで受けよう。私はただ、歌が次々と口をついて出てくるのが楽しかっただけだ。
(1901/04/30)