Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

万葉の心③

 元義の歌は純粋なる万葉調である。そのため『古今集』以降の歌のように、理屈や装飾といった余計なものは見られない。
 また、事実、実景に無いものは詠むことがない。だから、その歌は真摯にして古雅。少しも『古今集』以降のテクニカルで煌びやかな風潮に染まっていない。
 ここに数首を抜粋して、一例とする。

 


  天保八年三月十八日自彦崎至長尾村途中
 うしかひの子らにくはせと天地あめつちの神の盛りおける麦飯むぎいいの山

 

  五月三日望逢崎
柞葉ははそばの母をおもへば児島の海逢崎の磯浪立ちさわぐ

 

  五月九日過藤戸浦
あらたへの藤戸の浦に若和布わかめ売るおとひをとめは見れど飽かぬかも

 

  逢崎賞月
まそかゞみ清き月夜つくよに児島の海逢崎山に梅の散る見ゆ

 

  望父峰
父の峰雪ふりつみて浜風の寒けく吹けば母をしぞ思ふ

 

  小田渡口
いにしえのますらたけをが渡りけん小田の渡りをあれも渡りつ

 

  神崎博之宅小飲二首
こゝにして紅葉を見つゝ酒のめば昔の秋し思ほゆるかも


盃に散りもみぢ葉みやびをの飲む盃に散り来もみぢ葉

 


(1901/02/16)