Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

不平十ヶ条

不平十ヶ条

 

一、元老の死にさうで死なぬ不平
一、いくさの始まりさうで始まらぬ不平
一、大きな頭の出ぬ不平
一、郵便の消印が読めぬ不平
一、白米小売相場の容易に下落せぬ不平
一、板ガラスの日本で出来ぬ不平
一、日本画家に油絵の味が分らぬ不平
一、西洋人に日本酒の味が分らぬ不平
一、野道の真直について居らぬ不平
一、人間に羽の生えて居らぬ不平

 

(1901/03/12)

 

 

 


 

 これは、途中までいつも通り崩した文体で書き直していたんだけど、読んでいるうちに、一定のリズムで一条を3つに区切って読めることに気づきました。

 だとすると、これは単なる箇条書きの体をなした、詩なんではないか、何も考えずに書き下していては、文章全体の意図も崩れてしまうんではないか、と思ったのであえて原文で掲載します。

 

 2条目の「いくさ...」は、日露戦争(1904年2月~1905年9月)前夜の雰囲気を指しているのでしょうか。前年の1900年6月に義和団事件が起きています。

 3条目の「大きな頭」とは、何かの分野に突出した人物をさすのか、それとも日本が諸外国に対して大きなリードをとる、といったもっと大きな事柄を意味しているのかは、私にはわかりません。ご意見求む!

 いわゆる「最近気づいちゃったこと」というようなテイストで書き連ねられた十ヶ条ですが、「野道がまっすぐになっていない」という不条理で小さな不平まで落とし込んだ後に、「人間に羽の生えて居らぬ不平」という、開放を求める夢、のような表現でシメるところが、けっこうニクい演出だと思います。

 っていうか、歩くこともままならぬ状態で書いていることを考えると、広く、大きな世界を自由に飛び回っていたい、という願いは誰よりも強く持っていたのでしょう。

 

 

新部良仁