間違いやすい字を以下に列挙。
- 「段」「鍛」は「たん」の音であり、「假」「蝦」「鰕」「霞」「遐」は「か」の音である。「段」と「叚」は扁もつくりも違うのだが、混同するものが多い。
- 「蒹」「葭」は「あし」または「よし」の類である。「
葭簀張 」の「葭」も同じ字である。だが、近頃は「葮」の字を誤用するものがいる。こちらは字引には「むくげ」と書いてあるが、「よし」ではないのは確かである。 - 「おき」は「沖」である。だが、近頃は二水の「冲」の字を使うものが多い。どちらも「深い水」といった意味が無いわけではない。だが、わが国では「おき」として使うのは、字の意味からではなく、むしろ「水の真ん中」といった字の組み立てからではないか。
- 「汽車」の「汽」を「滊」と書く者が多い。字引には「汽」は「
水气 である」と書いてあるのを福沢諭吉サンが見つけ出して、役としてあてたそうな。「滊」という字も存在するが、意味は違う。 - 「四」の字の中は、片仮名の「ル」のように右に曲がる。「讀」「贖」などのつくりの中も「四」を書く。だけども、「賣」は「四」ではなく、右に曲がらずまっすぐ引き下ろす。その由来だのなんだのはどうでもいいが、「讀(とく)」のつくりが「賣(ばい)」ではないということは、知っているべきだ。
- 「奇」の上の部分は「大」である。「奇」を字引で引くとしたら「大」の部を見なければならない。だけど、「立」のように書くのも、昔からあることだ。
- 「逢」「蓬」「峯」は「ほう」であり、「降」「絳」は「こう」である。終わりの所がちょっと違う。
- 「姬(ひめ)」のつくりは「臣」ではない。
- 「士」と「土」、「爪」と「瓜」、「岡」と「罔」、「齊」と「齋」、「
戊 」と「戌 」、これらの区別は、おおかた知らない人もいないだろうが、「商(あきない)」と「啇(てき)」、「班(わかつ)」と「斑(まだら)」の区別がつかない人が少なくない。
以上の誤字の中でも、古くから書き習われて、一般的に通用しているものは、あえて改める必要もないだろう。だが、甲の字を乙の字と取り違えるといったものは、ぜひとも直さなければならない。
また、原稿で甲の字を乙の字と取り違えるのが仕方がないとしても、字の画を間違えている場合は、これを印刷する際に、自然と正しい活字として変換されるので、印刷物の誤字は少なくなるのである。
思うに、一番最初に作られた活字は『
せめて活字だけでも正しくして、世の惑いを増やさぬようにしたいものだ。
(1901/03/05)