Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

漢字の話③

 間違いやすい字を以下に列挙。

 

  •  「段」「鍛」「たん」の音であり、「假」「蝦」「鰕」「霞」「遐」「か」の音である。「段」と「叚」は扁もつくりも違うのだが、混同するものが多い。
  •  「蒹」「葭」「あし」または「よし」の類である。「葭簀張よしずばり」の「葭」も同じ字である。だが、近頃は「葮」の字を誤用するものがいる。こちらは字引には「むくげ」と書いてあるが、「よし」ではないのは確かである。
  •  「おき」「沖」である。だが、近頃は二水の「冲」の字を使うものが多い。どちらも「深い水」といった意味が無いわけではない。だが、わが国では「おき」として使うのは、字の意味からではなく、むしろ「水の真ん中」といった字の組み立てからではないか。
  •  「汽車」の「汽」「滊」と書く者が多い。字引には「汽」は「水气すいきである」と書いてあるのを福沢諭吉サンが見つけ出して、役としてあてたそうな。「滊」という字も存在するが、意味は違う。
  •  「四」の字の中は、片仮名の「ル」のように右に曲がる。「讀」「贖」などのつくりの中も「四」を書く。だけども、「賣」「四」ではなく、右に曲がらずまっすぐ引き下ろす。その由来だのなんだのはどうでもいいが、「讀(とく)」のつくりが「賣(ばい)」ではないということは、知っているべきだ。
  •  「奇」の上の部分は「大」である。「奇」を字引で引くとしたら「大」の部を見なければならない。だけど、「立」のように書くのも、昔からあることだ。
  •  「逢」「蓬」「峯」「ほう」であり、「降」「絳」「こう」である。終わりの所がちょっと違う。
  •  「姬(ひめ)」のつくりは「臣」ではない。
  •  「士」「土」「爪」「瓜」「岡」「罔」「齊」「齋」じゅつ、これらの区別は、おおかた知らない人もいないだろうが、「商(あきない)」「啇(てき)」「班(わかつ)」「斑(まだら)」の区別がつかない人が少なくない。

 

 以上の誤字の中でも、古くから書き習われて、一般的に通用しているものは、あえて改める必要もないだろう。だが、甲の字を乙の字と取り違えるといったものは、ぜひとも直さなければならない。

 また、原稿で甲の字を乙の字と取り違えるのが仕方がないとしても、字の画を間違えている場合は、これを印刷する際に、自然と正しい活字として変換されるので、印刷物の誤字は少なくなるのである。

 思うに、一番最初に作られた活字は康煕字典こうきじてんにを参考に一字一字作ったので、活字は極めて正しい漢字であろう。だが、近年できた活字は、無学な人が杜撰に作ったものもあるようで、往々にして偽字ぎじを見つけることがある。

 せめて活字だけでも正しくして、世の惑いを増やさぬようにしたいものだ。

 

(1901/03/05)