Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

ヤマ師流養生法

 ある人曰く...。

 

 勲位や官名といった肩書を振り回して「なんちゃら養生法」なんていう杜撰な説をなして、世の中の人々を毒する行為は医学界の罪人といわなければならない。

 世にはヤマ師流の医者も多いけれども、ただ金儲けのためだけにやっていて、その方法は無効だが無害でもあるので、まあ大目に見てもいいだろう。

 「日本人は牛肉を喰ってはいけない」なんていう、なんだか自分勝手で都合の良い説を作っては、ちょっと旧弊な人々やチョンマゲ連中なんかをハメて、「ミカンは袋ごと喰うべし」とか「イモの養分は中よりも皮の方に多い」とか、ぶっ飛んだ養生法を唱えては、人の胃腸を害することに驚き入った次第だ。

 故・幽谷ゆうこく氏なども、一時こういった説にダマされて死期を早めたと聞いた。とにかく勲位官名があるだけに惑わされる人も多い事だろう。世人には薬剤官を医者のように思う人がいるけれど、薬剤官は医者ではない。さらに、その「薬剤官」という名前さえ、十分な資格もないのにオナサケでもらったようなヤツもいるとあっては、まったくアテにならん...云々。

 

 この前手紙を出して、こういった養生法を私に勧めてきた人がいる。その時、引き札のようなものも一緒に送られてきた。「養生法の引き札」ってのがもう既にミョーなモノなのに、更に引き札の後半部分が31文字に並べられた養生法の訓示で埋められているのを見て、いよいよヤマ師流のやり方であると確信した。

 世に道徳の歌や教育の歌、あるいはこういった養生法の歌のようなものは多くあるけれど、こういった歌を作るヤツにホンモノの道徳家、教育家、医師がいたためしがない。

 いま、ある人の説を聞いて、私の推測が間違っていなかったことを知る。

 

(1901/05/03)