根岸に移ってこのかた、特に病気になって臥せってからこのかた、年々春の暮れから夏にかけて、ホトトギスというものの声をしばしば聞いた。なので、今年はどうかというと、立夏も過ぎたがまだやってこない。
なので、剥製のホトトギスに向かって、思うところを述べる。この剥製の鳥というのは、ナニガシという友人が自ら鷹狩りに行き、その鷹に獲らせたもので私のために作って送ってくれたものだ。
ほとゝぎす今年は聞かずけだしくも窓のガラスの隔てつるかも
うつ抜きに抜きてつくれるほとゝぎす見ればいつくし声は鳴かねど
ほとゝぎすつくれる鳥は目に飽けどまことの声は耳に飽かぬかも
置物とつくれる鳥は此里に昔鳴きけんほとゝぎすかも
ほとゝぎす声も聞かぬは来馴れたる上野の松につかずなりけん
我病みていの寝らえぬにほとゝぎす鳴きて過ぎぬか声遠くとも
ガラス戸におし照る月の清き夜は待たずしもあらず山ほとゝぎす
ほとゝぎす鳴くべき月はいたつきのまさるともへば苦しかりけり
歌は思いついた順にかく。順序はない。
(1901/05/11)
試しに私の枕元に若干の毒薬を置いてみろ。それでもって、私がコレを飲むか飲まぬかを見ろ。
(1901/05/11・記)