Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

藤の歌

 夕飯を食べた後、仰向けに寝ながら左の方を見れば、机の上に藤を行けてあり、よく水をあげたせいか今は花盛りとなっている。

 とても艶やかで美しいわい、と一人心地ながらなんとなく昔を思い出していたら、なんだか歌心を催してきた。こういったことには最近疎くなってきていたので、おぼつかなくも筆を執って...。

 

  かめにさす藤の花ぶさみじかければたゝみの上にとゞかざりけり

 

  瓶にさす藤の花ぶさ一ふさはかさねし書の上に垂れたり

 

  藤なみの花をし見れば奈良のみかど京のみかどの昔こひしも

 

  藤なみの花をし見れば紫の絵の具取り出で写さんと思ふ

 

  藤なみの花の紫絵にかゝばこき紫にかくべかりけり

 

  瓶にさす藤の花ぶさ花れて病の牀に春暮れんとす

 

  去年こぞの春亀戸に藤を見しことを今藤を見て思ひいでつも

 

  くれなゐの牡丹ぼたんの花にさきだちて藤の紫咲きいでにけり

 

  この藤は早く咲きたり亀井戸かめいどの藤咲かまくは十日まり後

 

  八入折やしおおりの酒にひたせばしをれたる藤なみの花よみがへり咲く

 

 おだやかならぬふしもあるけれども、病のひまの筆のすさみは日ごろあまりない憂さ晴らしである。とても良い春の一夜。 

 

(1901/04/27)