夕飯を食べた後、仰向けに寝ながら左の方を見れば、机の上に藤を行けてあり、よく水をあげたせいか今は花盛りとなっている。
とても艶やかで美しいわい、と一人心地ながらなんとなく昔を思い出していたら、なんだか歌心を催してきた。こういったことには最近疎くなってきていたので、おぼつかなくも筆を執って...。
瓶にさす藤の花ぶさ一ふさはかさねし書の上に垂れたり
藤なみの花をし見れば奈良のみかど京のみかどの昔こひしも
藤なみの花をし見れば紫の絵の具取り出で写さんと思ふ
藤なみの花の紫絵にかゝばこき紫にかくべかりけり
瓶にさす藤の花ぶさ花
くれなゐの
この藤は早く咲きたり
おだやかならぬふしもあるけれども、病のひまの筆のすさみは日ごろあまりない憂さ晴らしである。とても良い春の一夜。
(1901/04/27)