Nobo-Sanのボクジュー一滴

正岡子規『墨汁一滴』の超・現代語訳ブログ。やっぱり柿うまい。

祭りと傷跡

 今日は朝から太鼓がどんどんと鳴っている。根岸のお祭りなんである。

 お祭りというとすぐに子供の時を思い出すが、私がまだ10歳か11歳くらいのことだったろう、田舎に住み続けていた叔父のところにお祭りで招かれていくときに、私はいつも懐剣をさしていた。これは、私の家には当時、頑固で古風な趣味が残っていて、「男は刀を差しているべきだ」とされていた。しかし今となってはそれはヤバすぎるので、「せめて懐剣でも...」という事で母のものを貸されたのである。

 私はそれが嬉しいので、叔父の家に行った後ひとりで野道へ出て何かこの懐剣でなにか切ってみたくてたまらなくなり、ついに留め紐を解いてしまった。で、足元にあった細い草を1本つかんでフッと切ると、もともと切るほどの草でもなかったので、力が余って、懐剣の切っ先は私の左の足首を少し突き破った。子供心に当惑して泣く泣く叔父の家まで帰ると、果たして母に散々叱られたことがあった。

 

 その時の小さな傷は長く残っていて、それを見るたびに昔をしのぶ種となっていたが、今はその足首の傷を見ることも、できなくなってしまった。

 

(1901/05/16)