夜が短い季節ではあるが、病を抱えて身でしかも眠れないとあっては、行燈の下の時計だけを眺めてとても長く感じる。
午前1時、隣の赤子が泣く。
午前2時、遠くで雛の声が聞こえる。
午前3時、単行の機関車が通る。
午前4時、紙を貼った壁の穴がわずかに白んできて、窓の外の追い込み籠で、鳥がチチと鳴く。やがてスズメやカラスも。
午前5時、戸を開ける音、水をくむ音。世の中にだんだんと音があふれ始める。
午前6時、靴の音、茶碗の音、子供を叱る声、拍手の声、善の声、悪の声、千声万響。ついに私のあげる苦痛の声を埋もれさせてしまう。
(1901/06/06)